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会いにいこう 若冲に

昨今、美術館で展覧会が開催されると「最後尾 300分待ち!」など、
長蛇の列ができる江戸時代中期の人気絵師、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)。
絵を見てもあまり感動のない私ではありますがなぜか昔から大好きなのです。
一昨年、大傑作の『動植綵絵図』が国宝に指定されるなど
若冲の魅力は尽きることがありません。

京都にはそんな伊藤若冲の絵に身近に会いにいける場所があります。
四条烏丸の錦市場もその一つです。
店の営業が終わると市場はさながら「若冲展」に様変わりします。
各店舗のシャッターは世界中で所蔵されている若冲の作品で彩られます。
通りをまたぐごとに現れる大きなタペストリーも
この地で若冲と出会えた気分を盛り上げてくれるのです。

若冲は錦市場の青物問屋「桝源」の4代目《枡屋(伊藤)源左衛門》で
ときには錦市場存続のために奔走したことを明らかにした論文も発表されたりしています。
そんな若冲ですが40歳を過ぎてから本格的に絵を独学で学んだと言われています。
錦市場には高倉通との交差点の角に若冲の絵をモチーフにした
「伊藤若冲生家跡」「錦市場」と記した鮮やかなモニュメントが
市場通りを挟んで対で立っています。

若冲といえば生涯を通じて心の友として親交があった
臨済宗 相国寺(しょうこくじ)の禅僧、大典禅師から多大な影響を受けています。
若冲の号も
《大盈(たいえい)は冲(むな)しきが若(ごと)きも其の用は窮(きわま)らず》
「本当に充ちたりているものは、中が空虚に見えるが、その働きは尽きることはない」
天秤棒をかついで煎茶を売る識者老人、売茶翁の茶道具の水差しに
大典禅師が綴った老子の一節から「若冲」を頂いたとか。

伊藤若冲は代表作『動植綵絵図』(三十幅)及び、釈迦三尊像(三幅)を
父母永代の供養と大典禅師へのリスペクトから相国寺に寄進しています。
時が経ち、相国寺が財政の危機に瀕し廃寺のピンチに見舞われたとき
この『動植綵絵図』(三十幅)を宮内省に献じ
その下賜金のおかげで現在の相国寺があるそうです。
修学旅行で訪れる金閣寺や銀閣寺も相国寺の塔頭(たっちゅう)のひとつです。
いかに力があった寺だったかが窺い知れます。

そんなわけで『釈迦三尊像』(三幅)は相国寺に残りましたが
この世のありとあらゆる生命、鳥虫魚貝、花卉草木を描いた『動植綵絵図』(三十幅)は現在も東京の宮内庁三の丸尚蔵館に収蔵されています。
しかしです。この仏画(三幅)と『動植綵絵図』(三十幅)合わせて三十三幅を一挙に当時と同じ相国寺方丈でしかもゆっくりと思いのまま鑑賞できる幻のような機会がここ京都にはあるのです。
それを知ったのは数年前、相国寺を訪れたときの職員との他愛もない雑談をしてるときでした。
「そんなに見たいのでしたらここ相国寺で見れますよ。」と。
(相国寺の公式WEB催事ページにも観音懺法会と書かれているだけで知る人しか知りません。)

毎年梅雨の頃に相国寺方丈で行われる法要、観音懺法会のしつらいとして
法要当日の1週間前から檀家の方だけでなく一般の方にも公開を行っているとの話を伺いました。
コロナ禍でここ数年は法要が見送られていましたが、今年念願のお参りをすることが出来ました。
絵は三尊物の中心に吉山明兆の『白衣観音』(本物)が、その両側に若冲の文殊、普賢の両菩薩が掛けられており、そのまた両側に左右対称となるように『動植綵絵図』(三十幅)が15幅づつ掛けられていました。(若冲の絵はすべて実物大の高精細複製画です。撮影不可)

複製画ではあるものの裏方丈庭園を前にして掛けられた全33幅の絵は同時に観ると圧巻でした。
若冲の大胆な構図や斬新な組み合わせの妙と美しすぎる色彩を存分に堪能し余韻にひたりながら京都を後にしました。

噂ですが現在改修中の宮内庁三の丸尚蔵館が今年の11月3日のプレ・オープンに合わせて
国宝『動植綵絵図』(三十幅)が公開されるとかされないとか・・・。
次はぜひ本物を見てみたいものです。 楽しみです。  
AICSサテライトオフィス A.Sでした。

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